蝉しぐれ──理不尽に負けない者たちへ
- sandaminami-doin
- 10 時間前
- 読了時間: 2分
(道場のすみっこから # 34)
【2026年7月17日の記録】

朝、駅前を歩いていると、
昨日より一層強く蝉の声が聞こえた。
その響きが、胸の奥へすっと入ってきた。
暑さやうっとうしさよりも、
むしろすがすがしさを感じさせる蝉しぐれだった。
その瞬間、藤沢周平の『蝉しぐれ』を思い出した。
あの物語には、理不尽な運命に翻弄されながらも、
まっすぐに生きようとする主人公が描かれている。
友との友情、おふくへの想い、父の面影──。
どれも夏の強い光の中で、淡く揺れる景色のように心に残っている。
厳しい境遇に置かれながらも、
最後には穏やかな場所へ帰っていく物語だった。
駅前で聞いた蝉しぐれのすがすがしさは、
その余韻とどこか重なっていた。
電車に乗ると、
今度は「理不尽」という言葉がふと頭に浮かんだ。
理不尽は、世の中にいくらでもある。
会社員だった頃にも、そんな場面を何度も見てきた。
厳しい部署へ回されても、
それを「試練だ」と受け止める人がいた。
無理難題にも愚直に向き合い、
挫けず、塞ぎ込まず、いつも明るかった。
昇進試験で満点を取っても落とされる。
それでも、
「どっか間違えたのかな。へへっ」
と笑って受け流す。
そんな人を見ると、不思議なものだ。
周囲は放っておけなくなる。
上司も、同僚も、心のどこかで応援したくなる。
「頑張れよ。負けるなよ」
そんな言葉を掛けたくなる人だった。
駅前で聞いた蝉しぐれを思い返す。
セミにとっても、この夏は理不尽なのかもしれない。
土の中で何年も過ごし、ようやく地上へ出てきても、
その命はほんのわずかだ。
それでも最後まで力を振り絞り、
精いっぱい鳴き、生き切る。
詳しいことは分からない。
けれど私には、『蝉しぐれ』という題名も、
そんな姿をどこか重ねているように思えた。
理不尽な境遇の中でも、
まっすぐに生きようとする人の姿。
そのすがすがしさを、
夏の強い光と蝉の声がそっと照らしている。
蝉しぐれは、ただの夏の音ではない。
駅前で聞いたあの響きは、
理不尽に負けずに生きようとする者たちへの、
静かな励ましのように思えた。



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